◎地理的表示

Q.1 農産物の加工を行う事業者です。「地理的表示」が保護されるようになると聞きましたが、「地理的表示」とはどのような制度ですか?

A

「地理的表示」とは、2014年6月に成立した「特定農林水産物等の名称の保護に関する法律※1」によって保護されることになった「農林水産物・食品等※2」の名称であって、その名称から当該産品の品質等の特性が産地と結びついているということを特定できるものをいいます。

農山漁村地域では、長年培われた特別の生産方法などにより、高い品質と評価を獲得するに至った産品が多く存在しますが、これまでその価値を有する産品の品質を評価し、地域共有の知的財産として保護する制度がなかったため、地域で育まれた伝統と特性を有する農林水産物・食品のうち、品質等の特性が産地と結び付いており、その結び付きを特定できるような名称が付されているものについて、その名称を「地理的表示」として国に登録し、知的財産として保護する制度が創設されたのです。

「地理的表示」は、具体的には、「地名+産品名」で構成されます。単に「地名と産品名」を並べただけではダメで、その産品の品質等が産地と結びついていることが条件となります。 保護を受けるためには、農林水産省に「地理的表示」と「産品の産地に結びついた品質等の特性」とを合わせて申請し、登録を受けます。 なお、酒類、医薬品等は、登録の対象とはなりません。

※1 地理的表示法(略称)
※2 特定農林水産物

Q.2 「地理的表示」は、「農林水産物・食品等の名称から当該産品の産地と結びついているということを特定できるもの」とのことですが、例をあげて説明してください。

A

たとえば「鹿児島黒酢」は、「主成分の酢酸のほかに多種類の有機酸を含み、特有の香りまろやかな酸味を有する」ことや「熟成期間に応じて、黄〜こはく色を呈する」という産品の特徴を有しており、これが「鹿児島の、微生物の活動に適した寒暖差が少ない温暖な気候、米・麹・水のみを薩摩焼の壺に入れ、1年以上の発酵・熟成工程が屋外に置いた同一の壷の中で自然に進行する、江戸時代後期からの伝統的な製法」という「地域との結びつき」が認められるものとなっています。

海外では、イタリアのパルマ地方の豚モモ肉と塩のみを原料とした生ハムについて「プロシュート・ディ・パルマ」の地理的表示が使用されていることは有名です。「アペニン山脈から丘陵に吹くそよ風が空気を乾燥させ、伝統的な製法で、何世紀にもわたり、生ハムの製造を可能にしてきた。」という地域との結びつきが認められるものです。

Q.3 「地名+産品名」という構成でありながら、「産品名」と「地域との結びつき」が認められないものには、どんなものがありますか?

A

たとえば「小松菜」はアブラナ科の野菜ですが、この名称は東京都江戸川区の小松川に由来しています。ところが現在では、小松菜は東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県等で全国の約8割が生産され、福岡県、大阪府でも生産されており、たとえ地名を含んでいたとしても「地域との結びつきの乏しい産品の普通名称」であるときは、「地理的表示」として登録できません。
「さつまいも」(薩摩芋)も同様の理由により登録できないと考えられます。

Q.4 「地名+産品名」というと、特許庁の「地域団体商標」が連想されます。地域団体商標の「神戸ビーフ」「市田柿」や通常商標の「夕張メロン」等について、農林水産省の「地理的表示」にも登録申請がなされたと報道がありました。
「地理的表示」と「商標」では、どのように違うのでしょうか?

A

「地名の名称+商品又はサービスの普通名称等」は、特許庁に地域団体商標として登録することができます。(一定の条件を満たせば、地域団体商標ではなく通常商標として登録することもできます。)
一方、農林水産省に登録する「地理的表示」は、「地名+産品名」ですので、よく似た印象がありますが、実際には以下のように多くの相違点があります。
農林水産物等の名称は、「地理的表示」「地域団体商標」「通常商標」のいずれか、又は重複して登録することもできます。申請に当たっては、その目的に応じて適切な登録方法を選択することが重要です。

  地理的表示 地域団体商標 通常商標
対 象 農林水産物、飲食料品等
(酒類等を除く)
全ての商品・サービス
申請主体 生産・加工業者の団体(法人格のない団体も含む) 事業協同組合、商工会・商工会議所、NPO等 法人又は自然人
産地との関係 品質等の特性が当該地域と結びついている必要 当該地域で生産されていれば足りる 業務を行っていれば足りる。
伝統性・周知性 概ね25年以上継続生産されていること(伝統性) 一定の需要者に知られている必要(周知性) 問われない。
品質基準 産地と結びついた品質の基準を定め、登録・公開する必要 制度上の規定はなく、権利者が任意で対応
品質管理 生産・加工事業者が品質を管理し、国が定期的にチェック 制度上の規定はなく、権利者が任意で対応
登録の明示 GIマークを付す必要 登録商標表示を付すよう努める
規制手段 不正使用は国が取締る 不正使用は商標権者自らが対応(差止請求等)
権利付与 権利ではなく地域共有の財産。他の生産者も登録可 名称を独占して使用する権利を取得
保護期間 取り消されない限り存続(費用は最初の登録免許税) 登録から10年間。(登録料が必要。)
更新登録可能(更新登録料が必要。)
海外での保護 地理的表示保護制度を持つ国との間で相互保護が可能(将来) 各国に個別に登録

 

 

Q.5 「地理的表示」の登録には、どのようなメリットがありますか?

A

地理的表示の登録を行うメリットとしては以下の点が挙げられます。

  •  
  • 産品の品質について国が「お墨付き」を与える。
    「地理的表示」を生産地や品質等の基準とともに登録するものであり、その産品の生産工程が適正に管理されているかどうかを国に毎年報告することによって、「地理的表示」を付した産品の品質を担保します。
  •  
  • 品質を守るものだけが市場に流通する。
    GIマークにより他の産品との差別化が図られる。基準を満たしたものに「地理的表示」の使用を認め、あわせて「GIマーク」を付すこととしています。
  • 「GIマーク」:登録された真正な地理的表示産品であることを証するもの。 
  • 訴訟等の負担がなく、自分たちのブランドを守ることが可能。
  • 基準を満たしていない産品に地理的表示を付すといった不正な地理的表示を使用する者に対して、国が取り締まるので、生産・加工業者の団体の負担が軽減されます。
  •  
  • 地域共有の財産として、地域の生産者全体が使用可能
    生産・加工業者の団体を登録申請人とし、その団体には「加入の自由」を定めることが求められます。地理的表示を使用しようとする者に対して、正当な理由なく加入を拒んだり、困難な条件を付してはならないとされていますので、文字通り地域共有の財産として使用することとなります。また、他の生産者等の団体が、同じ基準を満たして、同じ「地理的表示」を申請し、後から登録を受けることも可能です。

  「地域ブランド」を育成するために、広く門戸を開いているの

  です。

  

Q.6 「地理的表示」の登録を希望する場合、誰に相談したらよいですか?

A

地理的表示の登録制度は、平成27年6月1日から施行されています。農林水産省への登録手続は、行政書士が専門に取り扱っています。
地理的表示登録申請には、申請する団体の定款等の作成、申請書、事業者毎に明細書や生産工程管理業務規程等が必要です。また、登録商標との調整が必要になる場合があります。
農林水産物や食品について「地理的表示」の登録を希望される場合や、「地域ブランド化」を望まれる場合は、当事務所にご相談下さい。

 

~出典「大阪府行政書士会HP」